業務上HR領域に携わる皆様はもちろん、その他の業務を担っているビジネスパーソンの皆様も、昨今、従業員エンゲージメントという言葉を聞く機会が多くなってきているのではないでしょうか。そこで今回は従業員エンゲージメントについて解説します。
従業員エンゲージメントを構成する要素
エンゲージメントと言えば、商品サービスを提供する企業と、その顧客間でのエンゲージメントがわかりやすい例なのではないでしょうか。商品に対する満足度だけでなく、その企業に対しての信頼感と双方の関係性がエンゲージメントとなります。2つが双方向の作用をもたらしている状態が『エンゲージメント』と呼べる関係性です。
企業と従業員間で言えば、『従業員の会社への貢献行動』『会社・組織からの従業員の貢献に報いる姿勢』その2つがなければ、エンゲージメントが存在しているとは言えません。従業員エンゲージメントを構成する要素は主に3つが提唱されています。
① 働きやすい環境
② やりがいを感じられる状態
③ 企業のビジョンと個人のビジョンの一致
上記の要素が満たされている状態であれば、従業員の貢献意識が上昇し、パフォーマンスをより発揮出来ます。以下も『従業員の会社への貢献行動』に関わる項目です。
業務の負担感
従業員の業務量をきちんと管理し、業務量が多い順に改革することが一般的と言われています。しかしながら、従業員満足度は主観的な実感でもあるため、「負担感」に着目した改革も重要です。
公正感
人事評価などにおいて、「正当に評価されていない」「なぜあの人がばかり昇格するのか」などの不公正感があると不満につながります。
労働条件・環境
給与が安い、職場の環境が良くないことも不満につながります。
職場のコミュニケーションが取れない、職場内の人間関係が良くないなどの状態は不満につながります。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントを高めるメリットはとても大きいものとなります。一般的に言われているメリットは
・離職率の低下
・組織の活性化
・モチベーション向上
上記により、業績アップ、生産性の向上、延いては利益率改善なども付随してきます。その他にも、リファラル採用が成功しやすくなるなどメリットは多岐に及びます。
アルバイト・パート社員の離職率が下がったり、組織が活性化したり、個々のモチベーションが上がることによる業績インパクトは決して少なくないのではないでしょうか。
メリットを先に記載させていただきましたが、逆に従業員エンゲージメントが低いと人材の流出、業務停滞、顧客満足度の低下など、多くの企業を悩ませる問題が出てきてしまいます。
従業員にとって、会社は仕事をただこなすための場所ではありません。自分がどれだけ業績に寄与しているか、また自分が社会にどれだけ貢献できているかということも大変重要です。
上司や同僚とのコミュニケーションが良好なのも重要です。良好な人間関係の中では、上司や同僚が、自分の仕事に対する努力や成果を正当に評価してくれることでしょう。周りの人から感謝される、評価されることで、自分の仕事に社会的意義を感じることができます。
快適な職場環境で安心して業務に取り組める可能性があるので、さらにやりがいを感じることができるでしょう。
従業員エンゲージメント向上に向けた仕組み例
現状把握/モニタリング
eNPS(Employee Net Promoter Score)
組織のエンエージメントの現状把握の方法として、アンケートのほかに、『eNPS』の活用が挙げられます。eNPSは従業員エンゲージメントを数値化したものです。設問への従業員の回答から、『推奨者』『中立者』『批判者』に振り分けられ、推奨者の割合から批判者の割合を差し引き、eNPSを算出します。
業種によってもeNPSの平均数値は異なりますが、自社の状態と業界平均の比較ができるので、現状把握や施策後の成果のモニタリングに有効です。企業業績や組織構成の変化によってもコンディションは変わってくるため、定期実施を行い、結果によって適宜打ち手を打っている企業も増えてきています。
インセンティブ制度
人間の欲求を5段階に理論化した「マズローの欲求5段階説」に沿った、5つの種類のインセンティブがあると言われていますが、それぞれの例をお話しします。
物質的インセンティブ
お金や物品などを支給する、最も一般的なインセンティブです。給与や賞与、それ以外の金銭的インセンティブなどがあります。
評価的インセンティブ
承認欲求を満たす、人事評価や表彰などのインセンティブです。従業員同士で賞賛として贈り合える社内通貨制度もこちらに該当します。
人的インセンティブ
働く上での関わる人によって満たされるものです。わかりやすい例だと、志を同じくする同僚や上司の人間性によってもたらされるものです。
理念的インセンティブ
こちらは、従業員エンゲージメントを構成する要素の一つである、『企業のビジョンと個人のビジョンの一致』により、内発的動機付けがなされるものです。
自己実現的インセンティブ
本人の望む生き方や憧れの姿を実現することも、インセンティブになります。好きな仕事を任せたり、役職をつけることのほか、成長実感を得られるサポートもここに該当します。
アルバイト・パート従業員のエンゲージメント向上の取り組み事例
アルバイト・パート社員を対象とした、エンゲージメント向上施策の具体事例についてお話ししたいと思います。
株式会社マルハンの事例
パチンコ業界は慢性的な人手不足が続いていましたが、株式会社マルハンはエンゲージメント施策をやり続けることで、約10年で3倍以上の定着率を実現しています。
従業員は自社の評判を高めてくれるインフルエンサーと捉え、下記のような施策を講じました。
- ① 社員に対して、仕事において魅力に思うこと・重視することを調査し、求職者の中で、既存社員に近い思考を持った人材を採用し、育成していく方針に転換。
- ② アルバイトの人事・育成制度を正社員と共通の制度を導入し、抜本的に変更。社員間の差がない役割等級制度や目標管理制度などを取り入れています。
- ③ 業績や成果以外を評価する「企業通貨インセンティブ制度」を運用。様々な条件の中で働くアルバイトスタッフにも受け入れやすい報酬手段として活用。
マルハンでは、人事主導でなく現場主導で施策を進めていったことも成功要因の一つとなっていたとのことです。
参考:株式会社 PR TIMES/PR TIMES『エンゲージメント向上で変わる社員・アルバイトの採用・定着改善』
株式会社良品計画
無印良品の名前で知られる、専門小売企業。全国に店舗を展開し、全従業員のうち半数以上が臨時従業員。退職者に対する独自の制度『カムバック制度』を2016年3月に導入して以来、
2019年までの3年間でパート・アルバイト中心に約680名が良品計画に復帰を果たしています。人事側から呼びかけなどは行っておらず、企業へのエンゲージメントが高いからこその成果と言えます。
ポイントは下記2つが想定されます。
①年2回の役員から店舗への直接のビジョンシェアの場に、各店舗のアルバイト・パート社員も参加することが出来、ビジョンの浸透が促進されている。
②企業・従業員双方にメリットのある『カムバック制度』の仕組み構築。経験・スキルがあり、業績貢献できる従業員が、2ヶ月の試用期間の間に一定のレベルを認められれば、等級の飛び級ができるという制度を取り入れており、関係性の強化に繋がっていると考えられます。
(パーソルキャリア株式会社/d’s JOURNAL『正式な制度が安心を生む。「カムバック採用」の良品計画がつくる、戻りたくなる組織』)
非正規雇用者を抱える企業が意識すべき『従業員エンゲージメント』とはまとめ
今回は、非正規雇用者を抱える企業が意識すべき『従業員エンゲージメント』とはについて紹介しました。企業と従業員を双方向で繋ぐ、従業員エンゲージメント。
働きやすい環境、やりがいを感じられる状態、企業のビジョンと個人のビジョンの一致、この要素が満たされている状態であれば、従業員の貢献意識が上昇し、パフォーマンスをより発揮出来ます。
また、従業員エンゲージメントを高めるメリットはとても大です。一般的に言われているメリットは、離職率の低下、組織の活性化、モチベーション向上によって業績アップ、生産性の向上、延いては利益率改善なども付随してきます。
エンゲージメントを向上させることによって、結果企業の業績に繋がることが昨今注目を浴びています。アルバイト・パート社員であっても、エンゲージメントを高めることで企業側が得られるインパクトは決して小さくはないはずです。
現状の把握をし、一般論に惑わされず、自社の従業員の特性に合った施策を講じていくことが従業員エンゲージメント向上のカギとなっています。