店舗経営のDX(デジタルトランスフォーメーション)を科学するウェブマガジン

ポイントサービス成功のカギ アイキャッチ画像

ポイントサービス成功のカギ

CRM
  • hatena

「ポイントサービスを利用し9期連続で増収増益」
イオンやイトーヨーカドーなど大手企業ではない山梨県のスーパー「オギノ」が、ポイントサービスひとつで9期連続で増収増益を達成しています。今回はその秘密に迫ります。

ポイントサービスを始めるきっかけ

1997年11月。山梨県の地場スーパー、オギノの本店の正面にダイエーが新店を開きました。ダイエーの売り場面積はオギノの約3倍。オギノは品揃えにおいても価格競争力においても圧倒的な不利でした。ダイエーなどの大手企業は商品を大量に仕入れて小売価格を下げ、価格競争力でも優位に立つことができます。

ダイエーの開店日には創業者が先頭で士気を取るほどの力の入れようで、最後まで売り場の見直しを指示していました。オギノを切り崩すことは山梨攻略のためで、地場店舗が大手企業に敗れるという近代資本主義で「よくあること」が起こるのではないかと思われました。

当然オギノ側は焦ります。当時のオギノの売上高は544億円。一方のダイエーは2兆5000億円で戦力では圧倒的な差があり、状況を打破しなければ淘汰(とうた)されてしまいます。そこで、ダイエーに対抗するために始めたのが「ポイントサービス」。そう、オギノはおまけにも近いポイントサービスで大企業ダイエーに「対抗」しようとしたのです。

オギノのポイントサービス

オギノのポイントサービスは、会員カードをレジでスキャンすると本店のサーバーに情報が飛び、その人にあった商品をその場でレシートに反映させる仕組みで、その人にあったクーポンを付与する形式を取りました。レシートにクーポンをつけるスーパーは他にもありますが、すべての客に同じ商品を提案することが多いのに対し、オギノは分析により一人ひとりを分類し、顧客ごとに違った商品を勧めることを可能にしました。

運用を開始すると、オギノのクーポン利用率は40%を超えました。的確な分析を可能にしたのは、オギノの会員カードの利用率の高さによるものでした。カード会員は43万人強。県内の人口比で49%、世帯比では141%を占めています。しかも、平均カード利用率は93.5%、カード利用売上比率は96.9%という高さ!

「カード利用率が85%を超えないと、正確な好み分析はできない」と言われていますが、オギノのポイントサービスはこの高いカード利用率によって成り立っており、「お客さまに合ったクーポン」を配信するという単純な事実ひとつがオギノのポイントサービスの異例の好成績を生み出したのです。

オギノのポイントサービス「貯める」

では、具体的にどのようにポイントが貯まるのか。レシートクーポン以外の点をみていきましょう。
まず、オギノのポイントサービスの特徴は「貯まりやすい」ことです。オギノ直営売り場では、270円ごとに1ポイントが貯められます。このほかにガソリンスタンドや美容院などのオギノグリーンスタンプカード提携店でも貯めることができ、提携店にはのぼりが立っていてわかりやすくなっています。

さらに「オギノ直営売り場では、2,000円以上お買い物いただくとポイントが5倍になる」、「ボーナスポイントが付く商品」などポイントが貯まりやすいサービスが充実しています。レシートで常にポイントの累計やその買い物の加算ポイントが確認でき、先述のクーポン同様、レシートに釘付けになる仕組みです。提携店がとても多く、一つの店舗のポイントカードという殻を破り、提携店がたくさんある「山梨県のポイントカード」という地位を確立したのです。

オギノのポイントサービス「使う」

オギノのポイントカードで250ポイント貯めることができると、次のオギノ店舗でのお買い物で、「オギノポイント券」がもらえます。使い方は、3枚集めて商品券1,000円に交換できる…のみではなく、インターネットでカタログギフトを選ぶことも可能で、好きな商品・サービスと交換することができます。本当に欲しいものがポイントを使うことでもらえるのです。さらに、ポイントサービスを使うことのできる提携店舗は山梨県内のホテル・旅館・温泉・カラオケ・映画・エステなどが勢揃い。まさに、ひとつのスーパーを超えた「山梨県のポイントサービス」を築いたのです。

もう結果は明らか。1999年8月、ダイエーは2年もたたずに業績悪化に伴って、不採算店の閉鎖を余儀なくされたため撤退を決めました。
それは、地域住民がオギノに軍配を上げたということでもあります。

まとめ

起死回生を図ったオギノはメーカーとタイアップして、メーカー側のコストで消費者に還元していくセールも行うなど、ポイントサービス全体のコストをできるだけ押し下げる努力を行っています。そのシステムには最先端のものでも、もの珍しいものでもありません。大事なのは、当たり前のことを実行するために必要な仕掛けが何かを理解し、実行していることにあるのではないでしょうか。