店舗経営のDX(デジタルトランスフォーメーション)を科学するウェブマガジン

働き方改革に対する飲食業界の課題と解決策は?企業の具体的な事例も紹介 アイキャッチ画像

働き方改革に対する飲食業界の課題と解決策は?企業の具体的な事例も紹介

働き方改革
  • hatena

政府が推進する「働き方改革関連法」として、8つの法案が2019年4月から施行されました。
中小企業においても、2020年4月より義務化、罰則規定も運用開始がなされました。
自社で改革を進めていく上で留意したいことや、企業の取り組み事例を紹介します。

飲食業界に導入可能? 改めて「働き方改革関連法」とは

飲食業界に導入可能? 改めて「働き方改革関連法」とは
「働き方改革」の基本的な考え方は、『働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、 自分で「選択」できるようにする』ということです。
「一億総活躍社会」の実現に向けた施策の一環で、
少子高齢化が進む中、誰もが継続的に長く活躍でき、生きがいを感じることが出来る社会を実現する、
という計画を実現するための取り組みです。
「働き方改革」は、⽇本国内雇用の約7割を担う中小企業・小規模事業者において、着実に実施することが必要と言われており、魅⼒ある職場とすることで、人⼿不⾜の解消にもつながると言われています。

主な内容は「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限規制」「同一労働同一賃金」です。
労働基準法が改正され、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
また、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
そして、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されます。

これらの施策により、前述の働く人がそれぞれの事業に応じた多様な働き方の選択を実現に近づけるという取り組みです。

参照:厚生労働省『働き方改革 特設サイト

飲食業界の「働き方」の特徴と改革の課題

飲食業界の「働き方」の特徴と改革の課題
東京都産業労働局による、労働時間管理に関する実態調査(平成29年)によると、
飲食業界の時間外労働の長さは、運送業、建築業、情報通信業に続いて4番目に長い結果が出ています。
時間外労働が発生する理由としては「人材が不足している」が60%と大半を占め、
飲食業界の人員不足は深刻と言えます。
それ以外には、「マネジメント不足」があげられました。
経済産業省の「働き方改革に関する企業の実態調査」によると、自社の長時間労働の原因を「管理職(ミドルマネージャー)の意識・マネジメント不足」とする割合が44.2%となりました。

時間外労働を減らすために、国からの助成金で、

  • 外部専門家によるコンサルティング
  • 就業規則などの作成や変更
  • 労務管理用機器の導入や更新
  • ⼈材確保に向けた取り組み
  • 労働能率の増進に役⽴つ設備や機器の導入や更新

などに必要な費用を申請出来るなどの対策が取られていました。

新型コロナウィルスの影響により、元々抱えていた業界課題に加え、
新たな問題が多数発生している状況です。
営業時間の短縮や外出自粛による売上大幅ダウンに加え、
テイクアウトやデリバリー対応などのオペレーション変更を余儀なくされているかと思います。
飲食店経営者の負担はもちろん、従業員全体へも大きく影響を及ぼしています。

参照:東京都産業労働局『労働時間管理に関する実態調査(平成29年)

これからの飲食業界の「働き方改革」で必要なこととは?

キッチンで働く男性スタッフ

少子高齢化が進む日本では、どの業界でも同じことですが、生産性の向上と後継者育成が急務です。
中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援のため、
国が業務改善助成金を設けるなどの支援をしています。
※「業務改善助成金」とは、個々の事業場が事業の効率化や働き方の見直しを実施して生産性の向上を実現し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げを行った場合において、生産性向上のための設備投資等にかかった費用の一部を助成するものです。
支給対象は、事業場内最低賃金が1,000円未満の中小企業・小規模事業者となります。
助成の上限額は、後述の5つのコースに応じて50万円〜200万円を受給でき、生産性向上を目指す中小企業にとって心強い制度といえるでしょう。

システム導入などによる業務改善、環境の整備はもちろん、人材の定着・育成を継続的に行なっていける土台づくりが肝となります。

特に、元々の競争環境の激しさと、新型コロナウィルスによる環境の変化の著しい飲食業界では、
労働条件も過酷になりがちで、人員の定着、育成を諦めたくなる様な状況かと思います。
今のこの時期だからこそ、改めて長年の課題に向き合い、施策を進めていくためのヒントとなる様な事例をご紹介できればと思います。

飲食業界の働き方改革の取り組み事例

飲食業界の働き方改革の取り組み事例
各企業が導入している働き方改革に関連する取り組みをいくつかご紹介します。

株式会社アレフ

ハンバーグの専門店「びっくりドンキー」を343店舗展開する同社は、
企業口コミサイト「Vorkers」(現 OpenWork)にて、
飲食業界「ホワイト度」ランキングで1位を獲得しています。

そのポイントとなっているのは、残業時間の短さや、有休消化率などの労働環境にあります。
法令遵守に力を入れ、女性でも働きやすいという声も多くあがっていました。
「食というのは、“人を良くする”と書き、食産業に関わる方たちは、
人を良くしていく、良い人を生みだすのが仕事である」という創業者の志が受け継がれているところも、
連続した年商アップを叶えている一つの要素だと思います。

参照:株式会社Vorkers『飲食業界「ホワイト度」ランキング

すかいらーくホールディングス

ファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングスは、今年1月から4月にかけて、国内全566店舗で、深夜の営業時間を短縮しました。
このうち現在24時間営業しているのは、ガスト62店、ジョナサン92店、バーミヤン1店の155店舗で、全店平均で2.5時間の営業時間の短縮という計算です。

プレスリリースによると、以下の背景からこの取り組みを決定しています。
「食とサービスを提供する企業として持続的な成長を目指すためには、従業員の健康に配慮した職場環境づくりが不可欠であると考えています。女性やシニアの方々も活躍いただける社会の実現こそが、雇用の充実につながり、働きがいを生み、結果お客様に最高の店舗体験をお届けできるという考えのもと、このたび24時間営業の廃止を決定いたしました」

参照:すかいらーくホールディングス『働き方改革の一環として、24時間営業を全店廃止

また、別の会社の例となりますが、2019年に出版された書籍『売上を、減らそう。』でも、売上至上主義からの解放が語られています。
働き方改革を進めるにあたり、前提条件を変えていく、という考え方も一つの選択である良い事例です。

働き方改革に対する飲食業界の課題と解決策まとめ

日々変わりゆく飲食業界を取り巻く環境。

特に政府が推進する「働き方改革関連法」によって、労働時間を減らすことへの難しさをご実感されていることと思いますが、企業それぞれに合った解決方法は必ずあります。

改革によって、魅⼒ある職場となることで、人⼿不⾜の解消にもつながると言われています。働く人がそれぞれの事業に応じた多様な働き方の選択を実現に近づけるという取り組みになります。
制度の整備や経営理念の共有による人材の定着・パフォーマンス向上で、より生産性を上げていく方法、
売上のトップラインに拘らず、ルール自体を変化させていく方法などの二つの事例をご紹介させていただきましたが、
これらはほんの一部の方法に過ぎません。

飲食業界は、競争環境の激しさと、新型コロナウィルスによる環境の変化が著しく、その結果労働条件も過酷になる傾向があり、人員の定着や育成が難しくなる様な状況かと思います。
今のこの時期だからこそ、改めて長年の課題に向き合い、
自社にあった取り組み方法模索の一助となれておりますと幸いです。