スマートフォンが定着した今、飲食店や小売店なども公式アプリやアプリサービスに参入してきています。今回は、O2Oアプリケーションの代表格『無印良品のMUJI passport』から、利用率を高くし、次の戦略をつくる仕掛け作りを見つけていきましょう。
公式アプリの戦略-来店・売上の増加
飲食店や小売店等の実店舗への集客ツールとして、スマホの公式アプリはかなり有効な手段となってきています。ジャストシステムによる20代~40代の男女561名を対象に行われた「飲食店や小売店の公式アプリと消費行動に関するアンケート」では、約3割が店舗アプリの利用開始後、「店舗に来店したり、商品を購入したりする頻度」が増えており、2割が企業の情報をチェックするようになったと回答しています。
さらに、1割強の人が「その企業の商品を周囲にすすめること」や「その企業やブランドの情報をSNSで拡散すること」が増えているようです。これらのデータから、飲食店や小売店にとって公式アプリを提供することは、消費者の購買意欲を高めることに加えて、企業や商品の認知向上や情報拡散といった効果をもたらすと考えることができます。
また、来店や購入の機会が増えた理由を聞いたところ、「お得なクーポンが定期的に発行されているから」という回答が6割で最も多く、続いて「ポイントが貯まりやすいから」が4割、「キャンペーンが魅力的だから」が4割という結果となりました。
消費者にとってクーポンは、来店や購入の促進に有効な施策であることがわかります。
公式アプリの戦略-無印良品『MUJI passport』
「チェックインでのポイント提供」や「最寄り店舗の検索」「店舗の在庫検索」など、実店舗への集客を強く意識したO2O(オーツーオー)アプリケーションの代表格として、無印良品の『MUJI passport』が広く知られています。
購入や来店に応じて「MUJIマイル」を蓄積できるのが特徴で、店舗での買い物、ネットストアでの買い物、店舗へのチェックイン、マイバックの持参、商品へのクチコミ投稿などで「MUJIマイル」が蓄積され、貯まったマイルに応じて買い物で使える「MUJIショッピングポイント」などがプレゼントされます。
また、無印良品週間の期間中には、優待価格で買い物できるクーポンも配信されている他、今いる場所から、欲しい商品の在庫があるもっとも近い店舗を案内してくれる便利な機能も使えます。
日本では、2015年9月初め時点で、ダウンロード数は460万に上りました。アプリの利用動向は季節や商戦、キャンペーン時などによって変動するものの、店舗レジでアプリを提示する会員は、来店客全体の12~13%を占めています。会員の購入単価は、アプリを提示しない顧客に比べて2倍ほど高く、売上構成比で3割近くを占める状況となっています。
公式アプリの戦略-『MUJI passport』アプリ利用率
出典:appape 無印良品「MUJI Passport」のアクティブ率がすごいことに…インテリア系アプリのアクティブ率/男女別年代比率を比較をしてみた。
上の二つのグラフは、それぞれ各アプリケーションの所持ユーザー数とMAU率(MAUはMonthly Active Usersの略。アプリを1ヶ月間に1回でも利用したことがあるユーザーの割合)を示しています。『MUJI passport』はおよそ90万人の所持ユーザーを抱えながらMAU率が80%を超える値を記録しています。
店舗へのチェックインや商品購入などに応じて加算され、貯まったマイルに応じて買い物に使える MUJIマイル。ポイントを貯める為に定期的に店舗に足を運んだり、店舗やネットショップで商品を購入しアプリケーションを利用する必要があります。
店舗でのチェックイン時、商品購入時など1つの商品を購入するだけでも複数回にわたりアプリケーションを起動する機会があります。このようにユーザーのアプリケーション起動目的を増やす事が膨大な所持ユーザーを抱えながらもMAU率が高い要因になっているのだと考えられます。
無印良品では、アプリの利用率を高める仕掛けを作り、来店・購入促進をはかっているだけではありません。アプリに集められる顧客のデータ・行動データを継続的に利用して、顧客囲い込みの施策を見つけるためにも活用しているのです。
公式アプリの戦略-『MUJI passport』消費者行動の分析
『MUJI passport』では、アプリ戦略において、ネット通販などの販促よりも消費者の好みや行動を分析することに重点を置いています。
チェックインでマイルが付与されるのは1人につき1店舗あたり1日1回です。一定期間中に、ある消費者が特定の店へのチェックインが多ければ、その人の生活圏を推測できます。曜日別や時間帯別、地域別などの観点から相関関係を分析し、会員にメッセージできる最適なタイミングを把握するなどの活用をしています。
また『MUJI passport』には、さまざまな顧客行動を可視化するための、ひも付けツールの役割があります。アプリに無印良品ネットストアのIDもひも付けて、購入履歴などを統合しています。ネットとリアルの両方で買い物時に「MUJIマイル」を貯められるほか、Twitterなどのソーシャルメディアとの連携、クレジットカード「MUJI Card」会員情報とのひも付けも行っています。
商品について「myMUJI」サイト上でコメントを投稿したり、「くらしの良品研究所」などで意見・要望をしたり、レビューを書き込んだりした時にもマイルが付与されます。
こうして顧客行動につながる機能を統合し、それらの行動データを蓄積することで、「顧客ニーズ」を明らかにし、さらに継続的に無印良品に付き合ってもらえるような次のアプローチをしていくというのが『MUJI passport』の狙いです。
公式アプリの戦略-まとめ
スマホやSNSの普及により、公式アプリを活用した顧客囲い込み戦略を行う企業が多くなっており、単にアプリを導入するだけでは競争に勝つのが難しくなってきています。また、ネット上のツールを利用して実店舗に来店していただくためには、お得なクーポンやメッセージを会員に一斉配信するという手法だけでは足りなくなってきています。
- 「来店ポイント」など、来店する事による特典を設けること
- アプリを常に開いてもらえるようなゲーム性のある仕掛け作り
と同時に、顧客データの分析・ニーズの把握・ターゲットの属性分けをすることにより
- 顧客や動向分析によるニーズに合わせた細かいメッセージ配信
- ターゲット、ニーズに合わせたクーポンメニューの設定
などを行うことが求められてきています。アプリの情報をどうマーケティングに生かすかが、今後の課題となりそうです。