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イケア効果?!マーケティングからモチベーションコントロールまで

マーケティング
  • hatena

「手間をかけるほど愛着が強まる」。研究者やマーケッターの間で「イケア効果(ikea effect)」と呼ばれるこの心理効果が、今注目されています。今回は、マーケティングのみならず、従業員のモチベーションアップにも応用可能な「イケア効果」について取り上げてみたいと思います。

マーケティングに有効な「イケア効果」とは?

イケアは、安価でクオリティの高い家具を実現するために、手間のかかる「組立式家具」とすることで、人件費の削減、物流効率の向上を実現しています。「イケアの家具は組み立てが面倒」という声がある一方、マーケティングの視点から見ると非常に理にかなった、効果の高い”手法”だということが証明されています。

Michael Norton マイケルノートン出典:PRINCETON ALUMNI WEEKLY

米ハーバード大の経済学者マイケル・ノートンは、こんな実験を行いました。被験者にイケアの家具を組み立てさせ、それをプロが組み立てたものと一緒に並べ、それぞれいくらまでなら買ってもいいかと尋ねたところ、被験者は自分が作ったものにより高値をつけたそうです。そして、「手間をかけることで愛着が強まる」という行動心理を「イケア効果(ikea効果、ikea effect)」として提唱しました。

例えば、

「家庭菜園の野菜で作った料理はいつも以上に美味しく感じる」
「自分でDIYした家具の方が既製品より愛着が持てる」
「自分で組み立てたプラモデルに愛着があって捨てられない」
「陶芸教室で自作したマグカップを長年愛用している」

などなど、、、私たちの生活の中にも、「イケア効果」は潜んでいます。自分で手間や労力をかけるほど、その対象がより価値あるものに見えるという心理が、マーケティングにどう活かされているのでしょうか?

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イケア効果を活用したマーケティングの例

イケア効果はなにも組み立て家具に限った話だけではありません。身近な製品で、ホットケーキミックスの製品開発におけるエピソードがあります。

hottcake出典:http://goods.jccu.coop

発売当初のホットケーキミックスは、それがあまりにも簡単すぎて主婦たちの労働自体が過小評価されてしまうと考えられ、反発されたそうです。しかし、メーカーが卵を追加するようレシピを変更したところ、その売れ行きは劇的に向上しました。皮肉なことに、手間を増やして作業をより困難にすることが成功に繋がったのです。

また、アンバサダーマーケティング、価値共創といったマーケティング手法もイケア効果が関連していると考えられます。例えば、ネスカフェのアンバサダー制度は、成功事例として非常に有名ですが、顧客からするとアンバサダーの審査や導入後の機器メンテナンスに、非常に手間がかかります。

それにも関わらず顧客の満足度が高いのは、「手間をかけている」というワンステップ面倒な工程を経ることこそが、満足度を高めているためと考えられます。

“アンバサダーマーケティングとは、自社ブランドのファンを「大使」として任命することで、口コミなどでその評判を広めてもらえることを期待するもの。
ネスカフェアンバサダーは、アンバサダーに応募して選考を通過すると、バリスタがオフィスに無料で提供されるという仕組み。1杯20円程度でおいしいコーヒーをオフィスで味わえるとあって爆発的な人気を集め、すでに10万人以上のアンバサダー登録者がいるという。“

マーケティングだけではなく従業員のモチベーションアップにも応用できるイケア効果

motivation

また、マーケティングの領域以外にも応用ができます。より大きな達成感を得るための工夫として従業員のモチベーションコントロールに応用できるそうです。

“このイケア効果は労働意欲の向上にも活用できると、イタリアのボッコーニ大学のマーティン・シュライヤー准教授は言う。たとえば流れ作業は効率的だが、その分"完成の喜び"がない。そこで、できるだけ作業者が全工程に携わる感覚を持てるようラインを工夫することで、その意欲を高められるという。“

みなさんにも身に覚えのある話ではないでしょうか?生活も仕事も「楽」な方が良いと思いがちですが、体を動かし、頭を使い、自ら工夫して何かを成し遂げるというのは、非常に「楽しい」ものです。

心理学用語に、「作業興奮」という言葉もあります。面倒だと思っていたことも、ひとたび取り掛かってしまうと、脳にやる気ホルモンが分泌されるというのです。家事や仕事のみならず、自分で材料を揃えて家具を作ってみたり、自分で部屋中の壁や床を塗り替えてみたり。もしかすると私たちは、「面倒」や「手間」を欲しがっているのかもしれません。

仕事においても、作業工程を敢えて増やし、帰属意識を高め、やりがいや楽しさを与える「イケア効果」が、従業員のモチベーションアップに応用できるのではないかというわけです。

マーケティングや従業員のモチベーションアップにイケア効果を応用するときの注意点

このイケア効果ですが、1点注意が必要なのは、完成までの工程をすべて自身で行わないと満足度を最大化しにくいという点です。実際に、「家具を完成させた被験者は、家具を途中までしか制作していない被験者よりも家具を高く評価した」ということが実験で実証されています。

マーケティングや従業員のモチベーションコントロールに応用する際も、相手は生身の人間ですから、この点はなかなかバランスが難しいところです。

こと工程を役割分担している仕事においては、どうしても一人に全てを任せるというわけにはいきませんから、前述の引用文の中に登場したマーティン・シュライヤー准教授の言われるように、”できるだけ作業者が全工程に携わる「感覚」を持てる”ことが重要なのではないでしょうか?

「自分にはこんなことができる能力がある」
「自分は誰かの役に立っている」

という「感覚」がモチベーションに拍車を掛けるものと思われます。実際に、「イケア効果」による自作のものへの愛着は、「自分にはこんなものが作れるんだ」という”自分の能力”に対する満足感にも起因しているといいます。

商品のマーケティングに応用するならば、「利便性」と「手間」のベストなバランスを探ることが必要になります。

イケア効果?!マーケティングからモチベーションコントロールまで まとめ

近年のDIYブームにも通ずるところがありそうな「イケア効果」について、私たちの生活や仕事に置き換えて取り上げてきました。

繰り返しになりますが、マーケティングの相手も、モチベーションを上げてほしい従業員も人間ですから、その行動心理を観察し理解することは、”応用”というよりマーケティング”そのもの”なのかもしれません。

企業にとっては”コスト削減かつイメージアップ”に、顧客にとっては手間や労力をかける”喜び”に、従業員にとっては面倒くさくて”最高”な仕事につながる「イケア効果」。

そのバランスさえ間違えなければ、登場人物が全員ハッピーになりそうな、今注目の手法を、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか?

参考:
労力をかけるほど仕事は楽しくなる!「イケア効果」をフル活用せよ
IDIA.jp
手作りした物の方が価値があると思い込んでしまう「イケア効果」